チェンバロと18世紀のフォルテピアノ

「チェンバロってなんですか?ピアノと違うの?」と疑問に思われる方が多いので書いてみました。鍵盤楽器もどんどん変化を遂げてきて、色々な形に変わっていくのですね。

チェンバロってなあに?

チェンバロは14世紀の終わりごろにイタリアで発明され、15世紀に発達し、16世紀から18世紀終わりまで、ヨーロッパでオルガンやクラヴィコードと共に主要な鍵盤楽器となりました。北ヨーロッパ、フランドル地方を中心に最も発達し、王の宮殿や貴族の館、裕福な商館、劇場やオペラハウスのオーケストラ・ピットに備えられました。富と権力の象徴のため、一流の装飾工芸家、画家などの手によって豪華な装飾がほどこされました。ジャックアクションで、弦を鳥の羽軸ではじいて発音する楽器で、美しくて優雅で、時には激しく鋭い音を奏でます。タッチで強弱をつけることは難しく、オルガンのようにストップを入れ替えて演奏する事もあります。

フレースハイスのオリジナルのフレミッシュチェンバロ
オリジナルのリュッカースとヴァージナル

ヨーロッパ全域、特に18世紀はフランスで華やかに愛好されました。国や地域によって独自の発展を遂げるものの、革命などによる貴族社会の崩壊やフォルテピアノの出現などで、一時期姿を消したように思われましたが、近年バッハの再評価やオリジナルの音を求める古楽復興運動が多く行われている事によって、再び注目が集まるようになりました。

フレースハイスのオリジナルのリュッカース フレースハイスのオリジナルのヴァージナル
アントワープにあるフレースハイス オリジナルのチェンバロが沢山展示してある

クラヴィコードって?

 クラヴィコードの歴史も長く、特に16世紀に広くにわたって使われました。チェンバロと同じ時代に存在しながらも、楽器の構造上違う奏法やテクニックを必要とします。キィの先にタンジェントと呼ばれる真鍮片がついていて、それが弦を押し上げて音を出します。強弱やヴィブラートをつけることが出来、カンタービレに旋律を歌っていく事が出来ます。オルガニストの家での練習用にも使われました。また現在でもチェンバロだけを弾いているチェンバロ奏者は旋律を歌うように弾く事が出来ないという理由からクラヴィコードの練習も勧められます。

ジーン・トルネイのクラヴィコード1
ジーン・トルネイのクラヴィコード

17世紀にはチェンバロが主体になってきたにもかかわらず、ドイツでは感情を豊かに表す楽器として相変わらず長く愛用されました。クラヴィコードはC.Ph.E.バッハの最もお気に入りだった楽器で、チェンバロよりもまず先にクラヴィコードで練習を始める事を彼の教本の中で勧めています。

ジーン・トルネイのクラヴィコード2 ジーン・トルネイのクラヴィコード3
ルネッサンス用の小さな鍵盤から18世紀の大型のクラヴィコードまで、色々な大きさのものがある。

18世紀のフォルテピアノ

アントワープ音楽院のシュタイン
アントワープ音楽院所蔵のフォルテピアノ。クロード・ケレコム制作のシュタインのレプリカ

フォルテピアノはアクション的に言うとクラヴィコードから発達したもので、ハンマー・アクションで弦を打って発音します。音色も発音もチェンバロとは違っていて、全く違う奏法やテクニックを必要とします。ダイナミクスが付き、感情の豊かさを表現できる事からチェンバロよりもだんだん人気が出るようになりました。1709年頃からどんどん発達していき、そして1770年頃にはフォルテピアノのための曲が多く作り始められました。

下の写真の5オクターヴのフォルテピアノは鍵盤の下にペダルがついていて、膝で押し上げるようにしてペダルをつけます。モーツァルトは1777年の10月17日にシュタイン(写真:左のピアノ)のペダルについて「この膝ペダルはものすごく効果があるよ」とお父さんに手紙を書いています。写真の右のピアノの膝ペダルの左側はモデュレーションになっており、ちょうどソフトペダルを踏んだ時のような音になります。

アムステルダム音楽院のワルター
アムステルダム音楽院所蔵のフォルテピアノ。ポール・マグノリティ制作のアントン・ワルター (1792) のレプリカ

チェンバロは普通バロックピッチの415Hz/ヴェルサイユピッチの396Hzで弾かれる事が多いようですが、下の写真のフォルテピアノは430Hzをとっています。19世紀の大きなフォルテピアノは440Hz以上をとることもあるようです。下の写真のフォルテピアノの本体の大きさや鍵盤の幅は殆どチェンバロと変わらない大きさで、調律は18世紀のチェンバロと同様にヤングが使われる事が多いです。バッハの息子たちの音楽やモーツァルト、ハイドンはもちろん、ベートーベンやデュセック、クレメンティ、フンメルの初期の頃の作品もこのピアノで弾くことがあっています。


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